2015年08月20日(木)記念講演「たばこの話」を開催
施設内全面禁煙に対しての取り組み
当院は平成28年1月1日をもって、病院敷地内全面禁煙となります。喫煙は生活の楽しみ、そんな考え方から多くの人たちの喫煙習慣が長く続いてきました。しかし医学的な側面から喫煙習慣には多くの弊害があることが昔から知られています。喫煙は喫煙者ばかりではなく副流煙による受動喫煙も招きます。この影響も予想以上に大きなものであり、他者の健康を阻害する大きな要因ともなっているのです。喫煙がもたらす影響を正確に学び、患者様、及び職員一同、私たちの健康管理に利するように生活習慣の改善を図るための取り組みが行われています。
去る8月20日及び27日午後5時より、約1時間30分にわたり栃木県立ガンセンター「神山由香理」先生による講演「たばこの本当の話」が行われました。参加者延べ150名、講演の後、多くの質疑応答を経て有意義な時間を過ごさせていただきました。その要旨を報告します。
記念講演
「たばこの本当の話」
栃木県立ガンセンター「神山由香理」先生
たばこに関する知識は誤解が多く間違った認識がある
私は現在呼吸器内科禁煙外来禁煙サポートを中心に小中高などでタバコに関する啓蒙活動をしています。宇都宮西ヶ丘病院全面禁煙活動に賛同しています。喫煙に関してはどうしても正しい知識が必要です。たばこに関する知識は誤解が多く間違った認識があると考えていますのでまずそれを正して行きたいと思います。
「たばこの本当の話」、私は人が集まる場所などはまず禁煙であるか否かを第一条件としています。多くのところは不完全分煙、禁煙ではありません。「禁煙対策は取られていますか?」そんな問いに、「禁煙?吸えますよ」。一般の飲食店ではそれがサービスだと思っています。禁煙でも「煙が流れてきませんか」と質問してみると、部屋は分かれているなどの説明をされて終わりです。どれもが不完全な禁煙エリアの設定、分煙で終わっているといえます。
喫煙率は、男性が60%から30%に減少、女性は20%からあまりかわらず微増しています。一説に女性の社会的位置と喫煙率は相関するとも言われています。つまり女性の社会進出に伴って喫煙率も上がっているというのです。
たばこの中身に含まれる全化学物質は4000種類、その内有毒物質は250種類、発ガン物質が60種類。副流煙はアルカリ性で、これは刺激が強いですから、目にしみるなどで体験された方も多いでしょう。副流煙でも有毒化学物質は250種類も含まれています。
サーモグラフィーでの手のひら温度図
喫煙すると抹消血管が収縮するため、30秒ですぐに手の表面温度は(最大6度程度)下がります。受動喫煙においても同様の変化が起きています。サーモグラフィーで手のひらの温度を色で表せば一目瞭然です。また喫煙者は著名に歯茎の色が全く違います、血行阻害は粘膜にも出るのです。喫煙している人は自分の姿に気がつきませんが、顔色、歯茎の色で喫煙者はすぐにわかるのです。
体は喫煙によって様々な障害が出て来ますが、一つはガン、二つ目は肺に与えるダメージ、そして循環器障害です。それぞれ経過には3つのタイプがありますが、専門家には喫煙者がそのどれに罹患するかがほぼわかってしまうのです。職業的な勘、その容姿に未来が刻まれていると言えるでしょう。
家庭内受動喫煙の影響は大きいです。それを防ぐにはガスマスクでなければ効果がありません。空気清浄機は何の役にも立ちません、たばこの煙は毒ガスと同じです。
・分煙は意味がない。
・空気清浄機は役立たない。
・受動喫煙防止ができるのは完全禁煙、全面禁煙のみ。
・飲食店などで禁煙にしても、利用者減少というような事態に
なることはなく収益には影響しない。
たばこを吸うと(1)思考力(2)持久力(3)保湿力が下がります。これらは脳を始めとするすべて各部位で抹消の血流が減少することによって起きる現象です。暗算の処理能力を数値化し変化を記録すると、如実にその影響が証明できるのです。喫煙による肺へのダメージは深刻で、肺の組織がケーキのスポンジのようにスカスカとなり機能は劣化してしまいます。最終的には酸素吸入が必要な状態となってしまうのです。
あるエピソード
アメリカにツインズ、双子のペアが全米から集まるイベントがあります。ある研究者がその中で、一人は喫煙し片方は喫煙しないペアを集め写真を撮りました。そしてその表情、たたづまいの差異がレポートされたのです。そしてそれは誰の目にも明確な表情の違いを示しました。スモーカーズフェイス、シミ、シワ、そして年齢以上に老けて見える風貌。血行の悪化はまず肌に出ます。くすんだ色とハリのなさ。そればかりでなく喫煙者のグループは、それだけで表情に輝きが見えずどことなく不幸そうに見えてしまったというのです。
ニコチン
有害物質を避けようとする生理反応
それがない状態は病気
人の気持ちに心地よい感触をもたらす脳内物質は「ドパミン」、それを放出させる物質が「アセチルコリン」です。アセチルコリンは様々な心的肉体的活動によって分泌されますが、ニコチンを吸収するとそのアセチルコリンの受容体にニコチンが優先してついてしまいます(受容体をふさいでしまう)。そのためアセチルコリン分泌による快楽は得られず、代わりにニコチンを摂取することが習慣化されてゆくのです。喫煙による匂いをくさいと感じなくなる、それは病気の状態です、喫煙習慣は止めるのではなく治すのだと認識を変えなくてはなりません。
ニコチンは血中に吸収されやすい物質であり、わずか数秒で取り込まれていきます。血中濃度は喫煙後30秒ほどですぐに上がり、約1時間弱で濃度が低下してゆきます。
ニコチンの濃度が高い濃度にあるときにドパミンが出るため、ニコチン濃度が下がる(ドパミンが出なくなる)とそれを補うように喫煙することになります。ほぼ1時間ほどで繰り返される上下動、一箱20本が製造会社がその生理を見越して作った量でもあります。
そのため禁煙は意志だけではうまく行きません。ニコチンが下がることによって出てくる生理的欲求をサポートする補助剤が必要となるのです。吸いたい気持ちが強く出ることが禁煙の辛さです、それが出ないことで成功率は上がるのです。
治療薬、補助剤にはニコチン製剤、チャンピックス、ニコチネルTTS。医療用は30mg、市販薬では20mgから10mgのものがあります。医師の指導に沿っての使用が効果を上げますので、医療機関での受診をお勧めするのです。
禁煙がうまくいっている人は「オーラが変わる」としか言いようのない印象の変化があります。まず身体中の血流が改善されることによる血色の良さ、また取り組みがうまくいっていることの成功感、多幸感がにじみ出ているのです。ある人は、街中で人に道を聞かれることが多くなったという人がいました。
タバコの煙には独特の臭みがあります。それは有害物質を多く含んでいるため、体は危険を察知して本能的にそれを拒絶しようとする正常な反応です。煙に対して不快な感触を持たない人は、センサーが誤動作している病気の状態なのです。
愛煙家は煙の匂いを「香り、香ばしい」と表現し、「臭い」という漢字を使いません。なんとか体に悪いものというニュアンスをすり替えようと言葉で細工するのです。家庭の中で受動喫煙が苦にならないというのは感性が汚染された結果で、すでに病気の状態です。
禁煙を成功させることにより、快感を感じる(ドパミンが日常的に分泌される)生活が取り戻せる
これが禁煙によってもたらされる最大のプレゼント
「タバコの本当の話」、その中心にある事実はただニコチンの有害性だけにあるのではありません。ニコチンの血中濃度、それは喫煙するたびにある濃度になり、それに対応してドーパミンが放出され、ある種の快感を得ることができます。その快感が習慣性を持ち依存症をもたらす原因にもなっています。
ですが「ドパミンの本来の濃度は、ニコチンを摂取することで得られる濃度を上回っている」のです。それがニコチン摂取習慣化によって低いレベルに下がっており、そのドパミン分泌が一般非喫煙者の持っているレベルに比較し低いマイナス領域での上下で、その中で満足感を感じたり不足イライラ感を感じているのです。
喫煙者が口にする「ストレス解消としての喫煙」、それは事実関係の順序が逆で、喫煙が習慣化されることにより、それ以外のドーパミンが出る機会を失っている負のサイクルなのです。ストレスを自ら作り出しドパミンによってそれを覆い隠しているようなものです。
しかしこの状態が長く続いている人はもはやドパミンは喫煙でしか出てこない状態となっています。そのため本数を減らすとリバウンドを招きますので、ニコチンパッチなどによる皮膚からの吸収が必要です。それによってニコチン濃度をある濃度に保つことにより喫煙要求が出にくいようにすることが禁煙が継続する上で大切なのです。いきなり喫煙を断つとコールドターキー、アセチルコリンが出ない状態となってしまいますから。
「禁煙を成功させることにより、快感を感じる(ドパミンが日常的に分泌される)生活が取り戻せる」これが禁煙によってもたらされる最大のプレゼントです。
「メンソールタバコについて」
巷(ちまた)では一時期「メンソールタバコは性的不能を招く」との噂が広まったことがありました。タバコは元々体に有害な物質、それに対して拒絶反応が起きるのは自然な生理です。その拒絶する反応を鈍くさせるためにタバコにメンソールという物質が添加されています。メンソールはその拒絶感覚を鈍くさせる物質なのです。当然他の様々な生理的反応に影響することでしょう。
タバコ産業は販売量を拡大することが使命ですから、消費量を増やすために様々な取り組みをしています。喫煙対象者を男性から女性に拡大することも意図的に行われています。パッケージなどはこれがタバコなのかと疑いたくなるような綺麗なデザインが施され、ファッショナブルで軽いタバコという触れ込みもあります。しかし軽いと言われる商品は、実際には深く吸う、本数を増やすようになるだけで吸収されるニコチン濃度が変わることはありません。
喫煙者のターゲットは欧米からアジア、男性から女性、若い人たちへと移り消費の拡大が図られています。先進国と途上国の風景を見れば一目瞭然です。作るのは先進国、消費させるのは途上国という図式。しかし嗜好品ということで法律で規制されることはありません。世界で唯一国で喫煙が禁止されているのは、幸福指数が一番と語られる「ブータン」、これは国民からの支持があったために実現した結果で、上から強制的にできるものではないようです。
大人は喫煙習慣を取り入れて長い時間が経ってしまいました。ですが子供達には間違った知識を与えてはならないでしょう。正確な教育が求められています。また喫煙者と非喫煙者が、互いに喫煙に対して、その行動についてどのように考えているのかの話し合いを持つこともいいでしょう。それぞれが違った想定でその行動を見ていることが露わになります、互いの幸福のため次に進む手がかりが見つかるかもしれません。
禁煙外来、「緑の外来」予約制
028(658)5012
閑話休題
冒頭、講師「神山由香理先生」は、自分たちが和装で集う「女子会」での話をされました。会を行う予定のレストラン入り口で佇(たたず)んでいる一組のカップルに対する話題です。
カップルのうち女性はレストランに入る前、どうしてもタバコが吸いたいのでしょう、入り口から離れて喫煙をしているというのです。その間、手持ちぶたさと思われる男性は、レストラン入り口にて神山先生方のスマホを使った記念撮影に、過剰なほど熱心にサポートしてくれたという経過です(何枚も違ったポーズを要求するなど)。
そんな姿からカップルの互いに向ける眼差しを想像すると、自分以外の女性に笑顔を振りまく男性を見る視線は、冷ややかなのか暖かいのかちょっと不気味、それを好意的に受け取っているかそうでないのかと心配してしまいます。どんな表情でその時を過ごしていたのでしょうね。
そればかりでなくこの風景からは、女性の喫煙率が下がっていないこと、むしろ女性の喫煙する姿がよく見かけられるようになったこと、女性の喫煙が減らない企業戦略の妙。そしてそんな女性の喫煙する姿を許容し、喫煙が終わるのをまっている男性の姿。かつてはあまり見かけることのなかったそんな男女関係の変化、喫煙を取り巻く時代の変化、飲食業の喫煙に対する変化、などいくつかの層を読み取ることができます。
入り口での喫煙、そこにも女性喫煙者としての配慮はあるのでしょう。テーブルについて相手の正面で喫煙する姿を見せないために、仮に喫煙席があるにしてもレストランに入る前に喫煙しておくという配慮です。目の前で時に相手に向かって煙を吐く姿は美しいものではありませんし、しゃべりながらの喫煙もいただけません、相手に配慮しているような横向き喫煙もかなりテンションの下がる姿です。
しかし「タバコの本当の話」の講義を受けたのちにこのカップルの姿をもう一度見直してみると、最初語られたのとは少し違う解釈が可能になったことに気づきます。名前も年も全く不明な赤の他人の男女、果たしてこのカップルの未来はどんなものかと勝手に考えるのです。
その手がかりは喫煙者のドパミン放出量レベル差の話です。
喫煙者と非喫煙者、それはあの米ツインズイベントでも証明されたように、明らかに健康面、心理面で差異があります。例えばカップルが二人で過ごす時間、その同じ時間の中に非喫煙者の男性は、ドパミンのレベル差により幸福感をより多く感じています。しかし喫煙女性は二人で過ごしている時間よりも、相手を待たせてでも喫煙することによって得られる満足感をその時点では優先しているわけです。
二人で過ごす時間のこの温度差、男性といることに幸福感をあまり感じていないのではないかと思われる女性の喫煙への執着(それは言い過ぎ?)。これは男性の愛情によって、説得によって彼女の喫煙習慣をやめさせない限りすれ違いは徐々に広がってしまうのではないかと想像するのです。まず心身ともに健康であること、男女の愛情を育むのにはとても大切な要素だと思うのですが、なかなか現実は一筋縄ではいかないようです。余計なお世話には違いありませんが。
(書記;鈴木)